チューブレスバルブ戦国時代!「すぐ詰まる」を卒業できるのは?人気5モデルの構造を解剖してわかった真実

2025年12月15日by NishimuraDaisuke

チューブレス運用を続けていると、ほぼ必ずぶつかるのが「バルブにシーラントが詰まって空気が入らない/抜けない」というトラブルですよね。

この記事では、以下の5種類のチューブレスバルブ(商品一覧)を題材に、「どこが詰まりやすいのか」「詰まっちまった場合のメンテナンス性はどう違うのか」「最終的にどれが推しなのか」 を、構造からかなりマニアックに掘り下げていきます。

先に大事な前提だけははっきりさせておきます。

ここでの「詰まりにくさ/メンテ性の評価」は、バルブの構造の違いと公開情報、現場の経験から組み立てた“技術的な仮説”であって、大規模な実測試験に基づく絶対評価ではありません。
実際の詰まり頻度は、使うシーラントや走行環境、メンテ頻度によって大きく変わるということは、最初に共有しておきたいポイントです。


1. なぜチューブレスバルブはシーラントで詰まるのか

まずは敵(=詰まり)の正体整理からいきます。

チューブレス用シーラントは、ラテックスや合成ゴム、溶剤、繊維や粒子などで構成され、一般的にパンク穴を塞ぐために「タイヤ内部で常に液体を保ちながら走行中に循環し、空気と接触したときに初めて固まる」よう設計されています。

この特性が最も顕著に現れるのが「バルブ内部」です。空気の出し入れによってシーラントがバルブ内の狭い通路で頻繁に空気と触れ、微細な皮膜やフレーク状の凝固物を生みます。これらが時間の経過とともに蓄積し、空気の入れにくさ、詰まりとして表面化します。

特に詰まりやすいのは、次の3ポイントです。

  1. バルブ根本(リム側)
    特にバイクを吊るしで保管しているとバルブが6時位置で止まりやすく、リムを伝わってバルブ根本から鍾乳洞のつらら石のようにシーラントが集まり滴りやすい。保管状況に関わらず、根本には凹凸もありシーラントが止まりやすいと言える。縦穴しかないとすぐ埋まる。
  2. バルブステム内の「段差」や「細い隙間」
    バルブコアの周囲、境界線の段差、プランジャー/ロッドと内壁の狭いクリアランス。シーラントが留まりやすく空気の流れにも触れる部分だから固まりやすい。
  3. バルブコアの中(先端ニップル直下)
    フレンチバルブ特有の極端に細い流路部分。ここに詰まるとバルブがしっかり閉まらなくなりスローパンクのような症状が出ることも。クリックバルブもだが勢いよく空気を抜いた時にはシーラントがコア内部に留まりそう。バルブを四時の角度にししばらく置いて、シーラントの暴れが落ち着いてからエア圧調整はしたほうが良い。タイヤ内でシーラントが満遍なく行きわたっている状態ではバルブを解放した瞬間にコア内にシーラントが逆流しやすい。

ここから先は、この「詰まりやすい3ポイント」に対して、それぞれのバルブがどんな構造で対処しているか、という視点で見ていきます。


2. 5種類のバルブ構造をざっくり比較

最初に、5タイプを構造ベースでざっくり俯瞰しておきます。

2-1. 構造タイプ別のざっくり分類

  1. 一般的な仏式チューブレスバルブ
    (バルブコア式)

    細いプレスタコアがバルブステム内にねじ込まれており、バルブニップル直下〜コア内部が一番細いボトルネック。ステム根本は縦方向の穴のみ、もしくは縦穴+横穴2つ、縦穴+溝のタイプが多い。
  2. CLIK TUBELESS VALVE
    (クリックバルブ式・縦穴+横穴2つ)

    Clikバルブ搭載。
    バルブステム側面に横穴(サイドホール)を2つ設け、「インサート対応」「シーラント詰まりを減らす」という狙いの構造。しかも、横穴は大きくえぐられた中にあるため横方向の実際のトンネル長はほぼゼロ。縦穴に横口がついているような構造で見るからに流量多く詰まりにくそう。
  3. Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik
    (クリックバルブ式+縦穴+溝3つ)

    同じClik規格対応だが、ベース部は横穴ではなく、縦穴+中心に向かって3つの溝で排気経路を確保するタイプ。インサートを入れていても空気は入れやすい方だが、横穴タイプには劣る印象。
  4. Muc-Off Big Bore Lite
    (ボールバルブ式・コアレス+縦穴+横穴4つ)

    ステム内部はほぼストレートに中空。先端にボールバルブがあり、レバー操作で全開/全閉。プレスタ比で大幅なエアフロー向上をうたう、コアレス構造。バルブ根本には4つの横穴もありインサートを入れていても空気はかなり入れやすい。
  5. Reserve Fillmore Valve
    (プランジャープラグ式)

    外観はプレスタ形状に酷似しているがコアはなく、ステム内を細長いプランジャー(ロッド)が貫通して上下に動く。 キャップ操作でロッドを押し引きすることで開閉する構造。開閉する度に根本に固まったシーラントを破壊できるから目詰まりしにくい。ただし、インサートが入っていると押し込むのに力がいる。また上から下までロッドがある分バルブステム内の空間は根本から先端まで狭く、メンテナンスを怠るとプランジャーが固着して動かなくなることがある。
バルブ種類 コア構造 ステム内部の流路 バルブ根本の構造 詰まり易い場所
一般的な仏式チューブレスバルブ プレスタコア(バルブコア式) コア部分が極端に細く、ニップル直下〜コア内部がボトルネック 縦穴のみ、または縦穴+浅い溝、横穴タイプもあり コア内部の細い隙間/根本の凹凸・穴や溝周辺
CLIK TUBELESS VALVE Clikバルブコア(クリック式コア) 仏式コアより流量多し。クリックコアを外すと太めのストレートに近い流路 縦穴+大きえぐられた奥に四角い横穴2つ 仏式ほどではないがクリックコア内部には細いロッドとバネがあり隙間は細め/根本まわりの凹凸・縦穴と横穴周辺
Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik Clikバルブコア(クリック式コア) 仏式コアより流量多し。CLIK同様、コアを外せば太い流路 縦穴+中心に向かう3本の溝 仏式ほどではないがクリックコア内部には細いロッドとバネがあり隙間は細め/根本の凹凸・溝にたまるシーラント
Muc-Off Big Bore Lite ボールバルブ式・コアレス ほぼ完全なストレート中空。レバー全開時はフルオープン 縦穴+周囲に4つの横穴 ボールバルブ部への付着程度。致命的なボトルネックは少ない
Reserve Fillmore Valve プランジャープラグ式(細長いロッドが貫通) ロッドが通ることで、ステム内のクリアランスはやや狭い 基本は縦穴構造(ノーマルプレスタ形状に近い) ステム内のロッドと内壁の隙間でのシーラント固着
5種類のチューブレスバルブを「コア構造」「ステム内部の流路」「バルブ根本の構造」という3つの視点でざっくり比較した表です。

以降は、この5タイプを「どこがボトルネックになって詰まりやすいか」「詰まった後にどこまで分解・清掃できるか」という2軸で見ていきます。


3. 一般的な仏式チューブレスバルブ:どこが詰まるのか

3-1. 典型的な詰まりポイント

通常のプレスタチューブレスバルブでよく起きるのは、 「コアの中」「バルブ根本」の詰まりです。

  • コア内部の詰まり
    ニップルを押し下げる細いロッドの周りに、シーラント膜ができて固まり、 ロッドと内壁のわずかな隙間を塞いでしまうパターン。
    空気がほとんど流れなくなり、ポンプヘッドをつないでも「うんともすんとも」状態になります。バルブニップルが回らなくなることも。
  • 根本の詰まり
    リムベッド側の凹凸にシーラントが留まりやすく塊ができ穴を塞ぎやすい。吊るし保管時にバルブが重みで6時の位置で止まっていると鍾乳洞のつらら石が伸びるメカニズムのように、内部からシーラントが根本に流れ着き留まり、穴の出口に「コブ」のように固まることも。インサートを入れていると、インサートがバルブ根本を押さえ続けるので縦穴は余計に固まりやすくなります。

メリットとしては、コアさえ外してしまえば、細いワイヤーや2mm六角レンチ棒で根本まで突き抜けるので、 完全に「どうにもならない」状態になることは比較的少ない点があります。 コア自体も安価なので、穴は貫通掃除をし、コアは動きが渋くなったら丸ごと交換で済ませる運用もしやすいです。

3-2. 「縦穴のみ」か「縦穴+横溝」かで変わること

仏式チューブレスバルブでも、根本の構造には大きく分けて3タイプあります。

  • リム側に縦穴だけが開いているタイプ
  • 縦穴に加えて、根本の縦穴中心に向かい溝がいくつか開いているタイプ
  • 縦穴に加えて、横穴が複数開いているタイプ

シーラント詰まりの観点では、

  • 縦穴のみ:ビード上げ時のエアフローが狭い。シーラントが「穴1つ」に集中して溜まりやすい。
  • 縦穴+横溝or横穴:シーラントの通り道と空気の抜け道が複数できるので、 どれか1つが埋まっても他の穴から逃げ場がある。インサートを入れるなら横穴あり一択。

とはいえ、どちらも「中にバルブコアが刺さっている」という根本構造は同じ。 最大のボトルネックはあくまで「バルブコア周りの細い流路」というのがプレスタ式の宿命だと考えています。

仏式バルブ(Presta Valve)のバルブコアの図
一般的な仏式(Presta)バルブのコア構造図。(© バイクプラス)
細いロッド+ニップル構造で、ステム内の流路がかなり細く細隙が多いため、シーラント詰まりの観点では弱点になりやすい構造であることが視覚的に理解しやすい。

4. CLIK TUBELESS VALVE:クリックバルブ+横穴のアプローチ

4-1. Clikバルブコア+チューブレスステム

「CLIK TUBELESS VALVE SETS」は、仏式バルブコアの代わりにClikバルブコア(Presta用)を組み合わせたチューブレスバルブです。

  • ステム上端のネジ部に、Clikバルブコアをねじ込む
  • ポンプヘッド側は専用のクリックチャックにより、「押し込んでロック、引いて解除」のワンタッチ操作
  • ステム内部の流路は、従来のプレスタコアよりも太く、高流量を狙った設計

「プレスタのネジを緩める/締める」という作業から解放されるので、 日常の空気入れが圧倒的に楽になります。

クリックバルブの空気の入れやすさについてはこちら
👉 仏式のあるある不満を解消!クリックバルブで空気入れがもっと簡単に

4-2. 最大のポイントは「バルブ根本の横穴」

Clikチューブレスバルブのステムは、根本に縦穴に加えてサイドホール(横穴)が複数開いた構造になっています。

CLIK チューブレスバルブ — バルブ根本の横穴の拡大写真
CLIK チューブレスバルブのステム根本。四角くえぐられた「横穴(サイドホール)」が確認できる。
インサート装着やシーラント使用時において、縦穴がふさがれてもこのサイドホールから空気・シーラントが逃げやすく、詰まり対策として有効な構造。

これは、従来型チューブレスバルブの 「インサートがバルブ根本を押さえ込んでしまい、縦穴が塞がる → ビード上げやエア抜きが困難」という問題に対する、かなりストレートな解決策です。

  • インサートが縦穴の正面をふさいでも、横穴から空気とシーラントが逃げられる
  • 根本の縦穴の他に横穴が2つあるため、シーラントが「一点集中」で固まりづらい

4-3. 「クリックバルブでも詰まるときは詰まる」が、対処はしやすい

とはいえ、CLIKも内部に「クリックバルブコア」という可動機構を持つ以上、ステム内部に細いロッドとバネ、それを取り巻く環状すき間が存在する点は同じです。

クリックバルブの内部構造図(Schwalbe Clik Valveの断面イラスト)
クリックバルブ(Clik Valve)の内部構造図(© バイクプラス)。
従来の仏式バルブコアに比べて、ステム内部の流路がやや広いが、ロッドとバネがあル。流量は仏式の1.5倍。

つまり、

  • シーラントがステム内壁とロッドの先端やコア内部の隙間で固まる可能性は残されており、ロッドの動きが渋くなる/完全に固着することはあり得そう
  • 根本の横穴部分に「シーラントのコブ」ができれば、横穴自体も埋まってしまう

それでも、

  • バルブコア(クリックコア)を外せば、ステム内は基本的にストレートな穴になる
  • クリックコアが完全に死んでしまっても、コアだけ交換が可能(Clikコアセットが別売り)
  • 2mm程度の棒を通してステム内を貫通洗浄しやすい

という意味では、「詰まっても最後は物理的に貫通させて再生できる」「コアだけ買い換えられる」という、現場メカ的にはかなり安心感のある構造だと言えます。仏式の1.5倍のエア流量、クリック式で空気が入れやすいというメリットはありますが、コア自体はシーラント詰まり対策としてはもう一歩かもしれません。

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5. Wolf Tooth for Clik:横溝ベースの「半歩進んだ」構造

5-1. Wolf Tooth版の違いは「ベース形状」

Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik Valveは、 中身のコアは基本的にClikと同じ規格に対応しつつ、バルブステム側の形状をWolf Tooth流にアレンジした製品です。

Wolf Tooth Tubeless Valve for Clik — バルブ根本の縦穴+三本の溝の拡大写真
Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik のステム根本。縦穴に加えて、中央に向かって3本に刻まれた溝(横溝)が確認できる構造。
横穴ほど大きな開口はないが、インサート装着時やシーラント使用時でも、溝を経由して空気やシーラントが回り込む余地を設けており、縦穴のみよりは詰まりにくさに配慮された設計。

写真を見る限り、

  • リム側は縦方向の穴(センターの穴)が基本
  • 加えて、縦穴の中心に向かって3本の溝が切ってある
  • Clikのような「はっきりした横穴」ではなく、縦穴+溝でインサートやシーラントに逃げ道を作るイメージ

つまり、Clikが「縦穴+横穴」、Wolf Toothは「縦穴+横溝」という違いです。

5-2. 詰まりにくさ・メンテ性のポジション

シーラント詰まりという観点で、Wolf Tooth版の立ち位置をざっくり言うと、

  • Clik純正チューブレスバルブ ≧ Wolf Tooth for Clik > 標準プレスタ

という順に、根本での「逃げ道」が増えているイメージです。

一方で、内部構造はどちらも「クリックバルブコア+ステム内にコアが存在」する点は共通なので、流量が多い分幾分詰まりにくいとは言え、ステム内でのシーラント固着リスクは高い方と見て良さそうです。 いずれも、クリックバルブコアが詰まったら交換する、バルブステムや根本が詰まったらコアを抜いてステム内を物理的に貫通させて掃除する、という運用が前提になります。

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6. Muc-Off Big Bore Lite:ボールバルブ式コアレス構造

6-1. 「ストレートスルー」でエアフロー重視

Big Bore Lite Tubeless Valves、サイズ:S、カラー:ピンクBig Bore Liteは、従来のプレスタバルブと違い、バルブコア自体が存在しないコアレス構造を採用しています。

  • ステム内部は、レバーを開いた状態だとほぼ完全なストレートの中空
  • コアレスだからシーラントを直接補充できる
  • 先端にボールバルブが付き、レバー操作で流路をフルオープン/フルクローズ。空気を少し抜く際も少しだけ開ければいいので微調整がしやすい。
  • プレスタ比で大幅なエアフロー向上(メーカー公称2.38倍)で、エア補充、ビード上げが圧倒的に楽になる設計

「中に棒を通さない」「コアを置かない」という設計思想が、そのままエアフローと詰まりにくさにつながっているタイプです。

Muc-Off Big Bore Liteのレバーをフルオープンにした状態
Muc-Off Big Bore Lite をレバー全開にした状態。
ステム内部が完全ストレートに中空になり、従来の仏式バルブとは比較にならないほど大きなエアフローを確保できる。
「中にコアやロッドを通さない」という設計思想が、詰まりにくさとビード上げのしやすさにつながっている。

ブログでも詳しくご紹介しています。
👉【レビュー】マックオフ「ビッグボアライト」詰まり知らずでビード上げも速い新世代バルブ

6-2. バルブ根本の構造:縦穴+多数横穴

Big Bore系バルブは、バルブ根本に縦穴に加えて複数の横穴を設け、タイヤインサートとの共存やシーラント滞留を避ける設計になっています。

Muc-Off Big Bore Lite バルブ根本の穴構造(複数穴)
Muc-Off Big Bore Lite のステム根本。合計5つの穴(縦穴+複数の横穴)が確認でき、シーラントやインサート時の通気経路が多い構造であることが一目でわかる。詰まりにくさと安定したエアフロー確保に寄与する設計。

つまり、

  • ステム内部は太いストレート
  • 根本は縦穴+周囲に多数の穴で、複数経路から空気とシーラントを出し入れ可能

という構造で、「シーラントが1箇所に溜まって固まる」シチュエーションを極力避ける設計思想と言えます。

6-3. 詰まりにくさ&メンテ性:今回の5つの中で最有力

詰まりリスク・メンテ性という意味で、Big Bore Liteを評価すると:

  • ステム内部に細いロッドやコアが存在しない → シーラントが留まりやすい細隙がそもそもない
  • コアレスなので、「コアの中が固まって動かない」というトラブル自体が発生しない
  • ボールバルブユニットを全開にするだけで、ステム内を端から端までツールで貫通させて清掃可能

ただし、ボールバルブという構造上、「半開き」で放置するとボールとシールの隙間でシーラントが噛み込んでしまいます。 保管時や走行時は必ずレバーを「全閉」にしておく運用が重要です。

まとめると、「詰まりにくい構造」+「詰まってもきれいに貫通させやすい」という2点から、今回の5種類の中ではもっとも「詰まりトラブルを減らしやすい」候補だと考えています。長さ選びが少し特殊ではありますが。

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7. Reserve Fillmore:プランジャープラグ式の光と影

リザーブ フィルモア(Reserve Fillmore Valve)のバルブコアの図
リザーブ フィルモア(Reserve fillmore)バルブの構造図。(© バイクプラス)
バルブ全体がコアになったようなイメージ。流量はプレスタの3倍。とは言えシーラント詰まりが発生した際のメンテナンスの観点では大きな弱点になり得る構造である。

7-1. プランジャー構造のメリット

Fillmore Valveは、Big Bore バルブやClik バルブが発売されるまでは「ポスト仏式バルブ」といえる存在でした。

  • 内部に細長いプランジャー(ロッド)が通っており、キャップ操作で上下に動く
  • コアレス構造で、バルブから直接シーラントを注入できる
  • 高いエアフロー性能とビード上げのやりやすさが、Big Bore 同様MTB系ユーザーから高く評価されている
  • キャップは絶対に必要

この構造により、従来のプレスタコアに比べて「詰まりにくい」「高流量」というメリットが得られているのは間違いありません。

7-2. 「No Clog」のパラドックスとメンテナンス性

一方で、海外の細かいレビューを読んでいくと、

  • 粒子や繊維成分が多いシーラント使用時に、プランジャー周辺で固着した例がある
  • 構造上、ステム内のロッドと内壁の隙間にシーラントが付着しうる表面積が非常に大きい
  • バルブ根本のシーラント固着はプランジャーを押すことで流路が広がるため、突き破ることができる
  • ロッドが動かなくなるほど固着してしまったケースもあり
  • 重度の固着が起きた場合、構造上分解清掃ができず(無理に分解すると破損するため)、公式には全交換対応となる

という現実も見えてきます。

普段からタイヤ交換やシーラント入れ替えの頻度が高いライダーであれば、そこまで悪影響が出ない可能性もありますが、「半年~一年ほぼ乗らずに放置する」といった運用をすると、他方式よりも固着リスクが高いのではないか、というのが構造を見た上での推測です。

7-3. 今回の観点での位置づけ

詰まりやすさそのものは、シーラント選びと運用次第でかなり優秀な可能性があります。 ただ、「詰まってしまった後にどうするか」の答えが、

  • 公式:基本的にはホイールからバルブを取って丸っと交換
  • ホイールからバルブを取り外し、中性洗剤・ぬるま湯につけ置きし洗う

となるため、「メンテナンス頻度が少ない方が良い」「メンテナンスも楽な方が良い」「部品交換も安くて簡単な方が良い」という視点だと、安心度はやや下がる、という評価になります。コアだけ交換でき、細い棒を突っ込める方がメンテ性は上...と言わざるを得ません。

👉 申し訳ありませんが、Reserve Fillmore は当店では扱っていません。


8. 縦穴・横穴・横溝 ― バルブ根本の違いは詰まりに効くのか

8-1. 3パターンを整理

ここまで出てきた「バルブ根本」のパターンを整理すると、以下の3つになります。

根本構造 代表的な採用バルブ 特徴 詰まりにくさ/
エアフローの傾向
縦穴のみ 従来型の仏式チューブレスバルブ リム側に縦方向の穴がひとつだけ開いた、最もシンプルな構造。 シーラントが1点に溜まりやすく、インサートが正面を押さえるとエアフローが一気に悪化しやすい。
縦穴+横穴 CLIK TUBELESS VALVE、Muc-Off Big Bore Lite など 縦穴に加えて、側面から複数の横穴が開いているタイプ。 空気とシーラントの出入り口が複数になり、インサート使用時でも逃げ道が残りやすい。詰まりにくさに最も効きやすい構造。横穴の大きさ、数量でも違ってくると思われる。
縦穴+横溝 Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik 縦穴の周囲に、中心に向かって細い溝が刻まれているタイプ。 横穴ほど露骨ではないが、インサートに押さえられても溝に沿って空気とシーラントが回り込めるため、縦穴のみより明らかに有利。
バルブ根本の「縦穴・横穴・横溝」という3パターンと、それぞれが詰まりやすさにどう効いてくるかを整理した表です。

8-2. 「詰まりにくさ」への寄与の仕方

根本の穴の数や方向は、主に次の2点に効いてきます。

  • ビード上げ時の瞬間的なエアフロー量
  • タイヤインサート装着時のエアルート確保
  • シーラントが一箇所に滞留し続けるかどうか

技術的な推測としては、

  • 詰まりやすさ(どれくらいの頻度で塞がるか)には、 穴の数・方向がかなり効く(インサート装着時は特に顕著)。
  • 一方で「詰まってしまった後にどこまで掃除できるか」は、 ステム内部の構造(コア/ロッド/プランジャーの有無)が支配的。

つまり、根本の穴構造は「詰まりにくさ」を改善してくれるが、 「詰まった後どうするか」はやっぱりバルブの中身・構造次第、という見方がバランスが良いと感じています。


9. 用途別おすすめと、あえての「独断ランキング」

ここからが、この記事の核心です。 あらためておさらいすると、今回の評価軸は次の3つです。

  1. ① 構造的な詰まりにくさ(細い隙間・段差・ボトルネックがどれくらいあるか)
  2. ② 詰まってしまった場合のリカバリー性(どこまで分解して掃除できるか)
  3. ③ 現場での扱いやすさ(ビード上げ、日常の空気圧調整、シーラント注入のしやすさ)

9-1. 独断と偏見ランキング(詰まりトラブル観点)

あくまで「詰まりトラブルを減らす/解消しやすくする」という一点に絞ったランキングです。

順位 バルブ種類 総合コメント(詰まりトラブル視点)
第1位 Muc-Off Big Bore Lite ステム内部が同径中空のコアレス構造で、細い隙間となる部分がほぼ存在しない。根本も縦穴+4つの横穴で逃げ道が多く、詰まりにくく、詰まっても端から端までツールで貫通清掃しやすい。インサートにも最適。
第2位 CLIK TUBELESS VALVE 2つのサイドホール構造で根本の詰まりとインサート問題を緩和。
クリックコアは交換可能で、ステム内も貫通掃除しやすい。詰まりにくさと扱いやすさのバランスが良い。
第3位 Wolf Tooth Tubeless Valve Kit for Clik Clikと同じクリックコアを使いつつ、根本を縦穴+横溝構造にしたタイプ。構造的にはClikよりやや保守的だが、一般的なプレスタよりは明らかに有利。
第4位 Reserve Fillmore Valve コア式と違い細穴がなく構造上は詰まりにくい一方、ロッドと内壁の隙間でシーラントが固着するとロッドが動かなくなるリスクがあり、重症化すると基本はバルブ全交換対応。トラブル時の安心感はClik系より一段下がる印象。
第5位 一般的な仏式チューブレスバルブ コア内部が極端なボトルネックで詰まりやすい一方、コア交換と貫通掃除での復活はしやすい。他バルブと比較するとエアの流量が少なくビード上げはしにくい。インサート使用は根本の穴数次第だが基本的にバルブそのもののエア流量が多いClik系やBig boreが有利。
「詰まりやすいが安く直せる」という、コストとの割り切り次第ではまだまだ現役のポジション。
「詰まりトラブルの起こりにくさ」と「詰まった後のリカバリー性」にフォーカスした、独断と偏見ランキングのまとめです。

9-2. 用途別おすすめざっくり整理

  • 「エアフロー性能も重要だし詰まりトラブルからも解放されたい」人
    Muc-Off Big Bore Lite を第一候補に。
    「ステム内に細い隙間を作らない」「根本に複数の出口がある」という構造的メリットが大きい。
  • Clikポンプヘッドを既に導入している/導入予定がある人
    CLIK TUBELESS VALVE を優先。
    サイドホール構造+クリックバルブの組み合わせで、現状かなりバランスの良い選択肢。
  • カラーコーディネートを重視する人
    CLIK TUVELESS VALVEWolf Tooth for Clik は、見た目&カラバリの豊富さも含めて「楽しい」選択。
    根本構造面ではWolfはClikにやや劣る可能性はあるものの、実用上は十分高水準です。
  • コスト重視/シンプルに運用したい人
    → 購入したホイールに標準で付いてくる一般的な仏式チューブレスバルブでも、こまめなコア交換+ステム内掃除で、十分戦えます。
    ただし、インサート併用や極太グラベルタイヤなど、ビード上げにシビアな環境では一段劣ると考えた方が安心です。コアだけCLIKバルブに交換することも可能ですが、根本の構造の違いも要チェックです。
  • 理論上のエアフロー性能を追求したい人
    → Reserve Fillmoreは、プランジャー機構により高いエアフロー性能を実現した先駆け的存在でした。ただ、
    後発のハイフローバルブ(Big Bore など)が登場した今は、詰まりにくさとリカバリー性を両立できる後発系の選択肢の方が、総合的には扱いやすいでしょう。

10. 最後に:これは「構造に基づく仮説」だという話

ここまで、かなり断定的に「これはこういう構造だから、こう詰まりにくい/こういうリスクがある」と書いてきましたが、 あらためて強調しておきたいのは、

この比較は「バルブの構造」と「公開されている情報」、そして整備現場での経験から、
詰まりトラブルの起こりやすさ/対処のしやすさをできる限り論理的に推測したものであって、 何百本・何千本のバルブを同条件で試験した統計データではありません。

実際には、

  • どのシーラントを使うか(粗い粒子・繊維入りか、サラサラ系か)
  • どれくらいの頻度でホイールを回してやるか/ライドに出るか
  • シーラントが固まりやすい温度や気候に晒されている期間
  • どのタイミングで「まだ詰まってはいないけど一度掃除しておくか」と手を入れるか

といった運用側の要素で、体験は大きく変わってきます。

そのうえで、「構造的にどこが詰まりやすいのか」「一度詰まったときに、どこまで分解・清掃できる設計なのか」 を整理しておくことは、ショップとしてお客様におすすめする際、 また自分のホイール選びをする際の判断材料として、かなり有用だと考えています。

少なくとも現時点では、「ステムの中にプランジャーやコアを通さず、できるだけ太いストレートの流路を確保する」「根本には縦穴+横穴(または多数の出口)を設ける」
という方向性が、 「バルブコアで詰まる」「根本で固まる」「インサートを入れたらイマイチ」というチューブレスあるあるを減らすためには理にかなっているように思います。

その意味で、現状の結論としては、「Muc-Off Big Bore Lite推し。ただし、組み付け時の手軽さではClik Tubeless Valve系もかなり有望。」 というくらいの温度感で捉えていただけるとちょうど良いかもしれません。

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西村 大助(Nishimura Daisuke)

西村 大助(Nishimura Daisuke)

バイクプラス共同創業者ショップ経験30年、MTB好き歴38年

1980年代後半にMTBに熱中し、アルバイト時代に老舗アウトドアブランドの自転車売場を担当。この頃に自転車整備士資格を取得し、本格的に自転車業界でのキャリアを歩み始める。2000年には外資系アウトドア専門店で専任メカニックとして勤務。その後、国内大手アウトドアメーカーの直営店で自転車売場を担当し、自転車取り扱い店舗拡大のためのスタッフ育成や販売体制の基盤づくりに貢献。 2003年には米国バーネット・バイシクル・インスティチュートへ留学し、体系的な整備技術を修得。帰国後は専門誌での記事連載やメンテナンスDVD出演などを通じて情報発信にも携わる。2007年にバイクプラスを共同創業し、全7店舗の立ち上げに関わる。 現在はオンラインストア運営やブログを中心に活動し、「専門性は高く、でも初心者にとって敷居は低く」を信条に、自転車のあるライフスタイルを提案している。

専門/得意分野
  • マウンテンバイク/ロードバイク/クロスバイク/eバイクの販売整備およびeMTBのカスタム
  • 米国メカニックスクールで学んだ体系的な整備技術
  • ショップ運営とスタッフ育成
  • サイクリング文化の普及活動
  • e-MTBでのトレイル/グラベルライド/キャンプ
保有資格
  • 1997年 自転車組立整備士合格
  • 1997年 自転車安全整備士合格
  • 2003年 Barnett Bicycle Institute Master Mechanic 3.0 Certified